寒くて起きるのがつらい季節になってきました。みなさんは、すっきり目覚められていますか?
子どもにとって、睡眠は心や身体を休めるだけでなく、成長のためにも欠かせない大切な時間です。
よい睡眠には、量(睡眠時間)と質(睡眠休養感=目覚めたときに「よく眠れた」という感覚)の両方が大切です。
1.睡眠不足がもたらす影響
睡眠が不足すると、心や身体に以下のような影響をもたらします(1)(2)。
・やる気やイライラなどの感情をコントロールする力の低下
・人の気持ちを理解する能力の低下
・脳の発達への影響
・肥満や抑うつ傾向のリスク上昇
・学業成績やスポーツのパフォーマンスなどの低下
・幸福感や生活の質(QOL)の低下
2.子どもに必要な睡眠時間
米国睡眠医学会によると、子どもの推奨睡眠時間は、小学生で9~12時間、中学・高校生で8~10時間です(1)(表)。
意外と長いな、と感じた方も多いかもしれません。実際、日本の小・中・高校生を対象とした調査(2022.9~2024.1)では、どの学年でも約半数がこの推奨睡眠時間を満たしていなかった、という報告があります(3)。
大人も含めた日本人全体の平均睡眠時間は世界的にもとても短く、十分な睡眠を確保することは大切な課題です。
睡眠の確保は世界的にも重視されており、アメリカでは子どもの睡眠時間を守るために学校の始業時間を遅らせる法律を定めた州(カリフォルニア州など)もあります。
3.思春期は睡眠不足になりやすい
成長に伴って夜遅くまで起きていられるようになるのは生理的な現象です。とくに思春期は、睡眠を促すホルモン「メラトニン」の分泌時間が遅くなり、夜更かし・朝寝坊になりやすい時期です。さらに、宿題、塾・部活動、SNSやゲームなど夜間の活動が増え、夜更かしに拍車がかかります。
一方で、朝は学校があり早い起床が必要なため、慢性的な睡眠不足が蓄積しがちです。平日に比べ週末に2~3時間以上起床時刻が遅くなるのは、睡眠不足のサインです。休日の朝遅くまで寝ることで不足分を補おうとすると、体内時計が乱れ夜型に傾きます。
こうして生活リズムがずれることで、不眠や日中の眠気、頭痛、だるさなどの不調が現れ、いわば社会的な「時差ぼけ」の状態になるのです。
4.よい睡眠のためにできること
よい睡眠のためには、十分な睡眠時間を確保するだけでなく、体内時計を整え、休養感を高めることが大切です。
次の点を意識した生活習慣を心がけましょう。
①よい睡眠のための環境づくり
夜は部屋を暗くし、寝室の照明は消して眠りましょう。寝る前や寝床でのデジタル機器の使用は、夜更かし・睡眠不足を助長します。
②眠りと目覚めのメリハリをつける
・朝の太陽光は体内時計をリセットします。起きたら太陽の光をあびましょう。
・朝食には体内時計を整える働きがあり、とくにタンパク質の摂取が、集中力や、夜の入眠に良い影響を与えると報告されています(2)。
・日中の適度な運動は、睡眠の質を高めます。
・夕方の仮眠は夜更かしのもとです。夕方の眠気は睡眠不足のサインかもしれません。
・激しい運動や入浴は寝る直前は避け、寝る2~4時間前に行うと寝つきがよくなります。
③嗜好品とのつきあい方に気をつける
コーヒー、紅茶・緑茶、コーラ、エナジードリンクなどに含まれるカフェインは睡眠を妨げます。とりすぎに気をつけましょう。
④眠れない、眠りに不安のある時は専門家に相談を
生活習慣を整えても睡眠の問題が改善しない場合、睡眠障害が隠れていることがあります。閉塞性睡眠時無呼吸、睡眠時遊行(夢遊病)、むずむず脚症候群、アトピー性皮膚炎のかゆみによる不眠などさまざまです。睡眠中の無呼吸、入眠時や夜間の異常な動き、強い日中の眠気が1か月以上続く場合は、かかりつけの小児科に相談しましょう。
「早く寝よう」と思っても、寝る前の数時間は生体リズムの関係で覚醒しやすく、無理に寝ようとすると睡眠の質が落ちてしまいます。まずは、「早起き」「朝食」「休日の寝だめを控える」など、朝の生活習慣を整えることから始めてみましょう。夜に自然な眠気が生まれやすくなります。
子ども自身が睡眠不足を自覚することも大切です。必要な睡眠時間から逆算して、一日の予定を自分で立ててみるのも効果的かもしれません。
5.家族で睡眠リズムを整えましょう
思春期の子どもの睡眠について述べましたが、親世代でも、30~50歳代の男性、40~50歳代の女性の4割以上が睡眠時間不足という調査結果があります(4)。
子どもの睡眠習慣は家庭の生活リズムの影響を強く受けます。忙しい現代では難しいこともありますが、家族全員で、できることから生活習慣を見直してみましょう。
エコチル調査大阪ユニットセンター
小児科 野崎 史子
<参考資料>
(1)厚生労働省:健康づくりのための睡眠ガイド2023
https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf (2025/11/19 アクセス)
(2)文部科学省「早寝早起き朝ごはんで輝く君の未来~睡眠リズムを整えよう!~」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/katei/20211004-mxt_kouhou02-1.pdf (2025/11/19 アクセス)
(3)理化学研究所:「子ども睡眠健診」プロジェクトで見えてきた実態
https://www.riken.jp/pr/news/2024/20240318_1/index.html (2025/11/19 アクセス)
(4) 厚生労働省:令和元年国民健康・栄養調査報告
001066903.pdf (2025/11/19 アクセス)




